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blog ナゴブロ 院長ブログ

深夜鈍行 - 幻想のアジア・1

2014/01/14

この正月を、私は義理の両親とともにタイ・バンコクで過ごしました。
20数年ぶりで訪れたタイ。久々に記憶の淵の白い日々と、現実の時間の間を漂う感覚がありました。
少し不思議な思い出話へとつながりますが、お付き合いください。

昭和6年生まれの義父は大病を2度乗り越えてきました。胃全摘術後に長くダンピング症候群に苦しみ、体重はずいぶん減りました。その父にはタイで引退生活している政治学者の弟がおり、タイへの訪問を切望していました。半年前、父は多分人生最後の海外旅行を決意し、私が主治医として同行を求められたのです。

例年の正月旅行とは違う今回の旅行で、私にはいくつかの発見がありました。

普段は妻と息子との生活をしている私にとって、両親とはいえ久しぶりに高齢者と過ごした時間でした。
義父はゴルフ好きで地元のアマチュア大会で何度も優勝する腕前でしたが、大病の後の今は80代の男性としても脚力が強い方ではありません。長年経営者として働いてきて知識も気働きも十分な人ですが、高齢者特有の小さな勘違いや頑固さがところどころに顔を出します。歩くスピードも1日でこなすスケジュールも、両親ともに私たちとはずいぶん違います。ついあくせくしがちのせっかちな私には違和感もありました。しかし結果としてのんびりとじっくり旅行ができました。私もそろそろまったりと時間を過ごす歳になっているので、いい練習というところでしょうか(笑)。
何より、年配の患者さんたちの生活時間を疑似体験できたというか、患者さんの気持ちを確認するいい機会になりました。

今回訪問したバンコクは、旅行直前に反首相派の大規模政治デモが連日報道され、かなり心配していました。しかし正月休みが幸いしたのか、現地ではそうした緊張感はほぼありませんでした。「微笑みの国」の政治緊張は、以前訪れたイスラムや南米の張りつめた危険さとは全く違う印象でした。
タイ政治の論文を執筆中の叔父から聞いたタイやアジアの情勢や、現地の空気から感じたタイ、特にバンコクはかなり豊かなスーパーアジアでした。今回アテンドに協力してくれた叔父の友人の先生と大学院生は、今年3月に8日間の日本旅行に行く予定だそうです。内容は北海道3泊!と東京4泊で、旅行用のダウンジャケットを買ったと嬉しそうに話してくれました。南国タイで、高価な日本旅行だけのためのダウンを買うリッチさです。
バンコク市内にいくつも展開するショッピングモールや高架鉄道は東京と変わらない華やかさ。しかし、そのすぐわきにあるバラックや物乞いの姿は極端な貧富の差を表しています。久しぶりにそうしたミクロな国際感覚を感じられたのは喜びでした。
こうした経済格差は特にアジアで広がりつつあるでしょう。例えば中国で同じような経済を背景にした政治緊張が起こった時に、「微笑みでない国」で何が起こるのかとても不安な気持ちになります。

今回のバンコク訪問は私にとって23年ぶりでした。
両親の休養日に、ぜひ行きたかった場所を息子と2人で訪ねました。若い頃の定宿の街、バックパッカーの聖地・カオサン・ロード。バンコクの有名な安宿街です。母校に帰ってきたような甘酸っぱい気持ちに、思わず足が止まります。懐かしき青春の記憶と変わらない雑多な街の店で食べる、パッタイとビール。隣り合うテーブルの欧米の貧乏旅行者との情報交換。歳を取り小金持ちになってこの街に帰ってきた名もなき若者のはしゃぎぶりを、息子はあきれ顔でながめます。しかし、彼にはトゥクトゥクで滑走したアジアの時間を、何年たっても覚えていてほしいと願っています。

次回、記憶の淵の白い日々の思い出話をさせていただきます。