ナゴブロ 院長ブログ
[掲載日:2021/11/29]
日々是好日
毎月のFMサルース出演での映画紹介。11月は、樹木希林さんの遺作としても知られる「日々是好日」をお話ししました。
2018年の作品、大森立嗣監督(弟は俳優の大森南朋、父は麿赤兒)、主演・黒木華、樹木希林(2018年9月没)、多部未華子。
原作は森下典子さん。1956年生まれ、精華小学校、横浜双葉中高、日本女子大卒の才媛です。
御自身の経験として、20歳の女子大生の典子が親に進められて茶道のお教室に通うようになり、それからの24年間を淡々と描く作品。
何も起こらない話です。
見どころはいくつかあります。
@ お茶を習い始める時の様子の丁寧な描写。袱紗のさばき方や、お湯と水を注ぐ時の音の違いなど。
A 黒木華の演技の見事さ。ブスな女子大生だった典子が歳を重ねるごとに女性として美しく変わって行きます。お父さんの葬儀の後の武田先生のお宅でのシーンには涙が出ます。
B 「近所のおばさん」武田先生を演じる樹木希林さんの凛としたたたずまいの美しさ。本当に名女優でした。
C 季節の移り変わりをお茶を通して描いています。そして感じる世の移ろい、人生のはかなさ。
D 素晴らしい台詞の数々。「日々是好日」からはじまり、お茶会の極意である「同じメンバーが集まっても同じことは起きない、一生に一度きりと思っておやりなさい」一期一会の教え。「世の中にはすぐわかるものと子わからないものの2種類がある、すぐわかるものはいちど通り過ぎればそれでいい、すぐわからないものは長い時間をかけて少しずつわかってくる」
素晴らしい脚本と、素晴らしい監督と、素晴らしい俳優さんの共演。素敵な映画です。
学生時代、私は何度か海外を放浪しました。西回り世界一周に始まり、サハラ砂漠を横断したり、アマゾン川を下ったり、タイからオーストラリアまでを旅したり。
外国で同世代の若者と語り合った中で、私は日本のことをあまり知らないことに気が付きました。自分の背景としてオペラを語るイタリア人や、シオニズムを説明するイスラエル人。少し変わり者であった彼らですが、自分が何者であるか理解している様に思いました。振り返って私のルーツは何なのか。
卒業後の研修医時代、私は学生時代の友達の母上が茶道のお教室をされているのを思い出し、入門をお願いしました。
一人で始めるのはつまらないと、友人2名に声かけして3人での入門でした。一人は歯科医、一人は当時舞台俳優でした。
ズッコケ3人組でしたが、先生には大事にしていただきました。時々他の友人も教室に誘いました。
お茶は基本女性の世界で、若い男性3人の弟子を持ったことは先生にも珍しかった様で、お食事会やお茶会にも連れて行って頂きました。
他のお茶の先生方とご挨拶する時、男性の門下生を引き連れた先生は少し誇らしげにみえました。
ある時、映画にも出てくる様な大きなお茶会が、護国寺で行なわれました。
大座敷のお茶室での場面。映画の中のシーンにある様にお正客の座に参加者みなさんが遠慮をし合います。今考えると立派な先生方が何人もいらした筈ですが、僕ら以外は全員女性。貫禄のある方達です。その中で男性は僕らだけというそれだけの理由でお正客席に座らされてしましました。
まだお茶を習い始めて1年そこそこの若者。一番の難敵、足の痺れといつも戦っていました。
さて、貫録の女性陣の赤子を見る様な微笑みの中で、冷や汗を流しながらお軸やお花をたたえてお手前はなんとかこなし、お茶碗を拝見する時、ついにやってしまいました。
足の痺れに気が遠くなりながら前かがみになった時、私のお尻から音がしたのです。
「ブリリ」
一呼吸の後、隣の相棒が吹き出しました。しかし、茶室の空気は凍りついています。
私は、もし脇差を差していたら腹を切って死ぬんだろうなと思いつつ、足の痺れで白目を剥いていました。
そんなこともあり、また研修医としての仕事の忙しさもあり、お稽古から足が遠のいて行きました。
茶道的にはお薄のお免状をいただき、貴人点をこなしたあたりで卒業させて頂きました。
同門の舞台俳優は変遷を重ね、いまは美食評論家として確固たる地位を築いています。
彼の名は中村孝則君。同い年で大学入学前からの友人です。
茶道は教授となり、剣道も七段のハンサムで、インターコンチネンタルホテル&リゾーツのグローバルアンバサダー、ファッション誌のコラムやTV出演もこなしています。
私が学生時代に夢見た、日本を知り世界にアピールする存在として活躍する友人を頼もしく思っています。
四季の美しさを茶室という小宇宙から描く茶道の世界。そこではゆっくりと空気が流れます。
生けてある花、掛けてある掛け軸で味わう世界観。亭主がお客のために心を込めて行う準備。
準備のための心遣いにかけられた果てしない時間、その濃密で贅沢な時間の中にいるからこそ特別の空間になります。
同じようにゆっくり空気が流れる一流の美術館と同じような空間が、狭い茶室に凝縮されています。
正座の時の足の痺れは今でも治りませんが、またお茶の世界にお邪魔できたらと思っています。
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