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レーザー治療、睡眠時無呼吸症候群

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しし神の森の獲物たち

2025/10/15

患者さんに誘われて、小田原で狩猟をしてきました。
これで僕もハンターの仲間入りです笑
といっても、鉄砲ではなくて罠。罠を仕掛けてかかった動物を確保する狩猟です。
その後、獲物は回収します。
回収ということは、かかった動物を仕留め、そこから処分場まで獲物を運ぶことです。
しかし狩猟とは、その獲物を解体し、ジビエとして命のお肉をいただく事までがつながっています。
それはかなり原始的な行為でありますが、命を屠るをいう作業において、哲学的意味を含みます。

ヴィーガンという考えがあります。肉や魚を食べない、卵や乳製品もダメ、というなんだかちょっとヒステリックな思想(ヴィーガンの人、ごめんなさい)と解釈しています。
狩猟は、ビーガンと真逆の行動になります。
山の中で泥まみれになって動物と格闘して相手を倒す。そこは本気の命のやりとりです。
罠にかかっている相手でも、窮鼠猫を噛む、最大の反撃にでます。
油断をするとこちらも怪我をするし、場合によっては怪我では済まない場合もある。
生命を止める処置は、電気槍。胸部を刺して高い電圧をかけることで、苦しみを少なく旅立たせます。
それを自らの手で捌く。皮を剥ぎ、関節を外し、お肉を余す所なくいただく。
調理の工夫をする。それを自らに取り込み血肉とする。
その作業には命を敬う気持ちが必要です。
自宅菜園で野菜を作るより、遥かに強く大自然と命を感じます。
申し訳ないけど、ヴィーガンの思想よりもっと大きな物語があると思います。

獣害のニュースが溢れる昨今。
目を引くのは熊による人的被害ですが、鹿、猪、猿による農作物被害も甚大です。
その背景には、温暖化による山の環境変化、過疎や農業政策による休耕地の増大、人間達のゴミや残飯の遺残による獣の意識変化、駆除組織としての猟友会の高齢化・弱体化、地方行政の駆除システムの不備などがあります。
熊だけでなく鹿や猪の問題が大きく存在し、緊急性を伴う駆除が必要な中、ハードルが高い猟銃ではなく罠による駆除が望まれているそうです。
罠猟も広い意味でハンティングであり、罠猟師もハンターになります。
猟銃所持には当然免許が必要ですが、罠猟でも免許が要るそうです。
友人でもある患者さんが、その免許を取るための診断書の作成を僕に依頼しに来ました。
診断書では、重病ではないこと、反社会的人物ではないこと、精神が安定していること、薬物依存ではないことの確認が必要で、そのための診断書です。

その人は小田原の罠による狩猟のグループに入っています。
そこでは狩猟のやり方を学び、狩猟免許取り、一人前の罠猟師になることがゴールだそうです。
座学で動物の生態、罠の仕組みと設置の仕方、罠狩猟のやり方、かかった動物の仕留め方、解体の仕方(!)、さばいた肉以外の部分の処分の仕方を学びます。
まあ1人で山に入って罠を仕掛け、捕まえた動物を仕留めてさばくなんて、伝説のマタギかアニメのゴールデンカムイの世界でしょう。ロマンはあるけど物語の世界。
現実では、チームで山に罠を仕掛け、罠に付けた無線機で動物がかかったかパソコンで確認、チームでかかった動物を林道を通って軽トラックと四駆で回収に行く、という流れです。

さて、狩猟免許の診断書を書いてくれと病院に頼んでも、断られることが多いとのこと。
まあ猟銃免許だと、その猟銃で殺人などの事件が起こったときに、診断書を書いた医師が責任を追及されるリスクがあり、そんなことを理由に断るんだろうなあ。
しかし、罠猟師の免許での診断書を断る理由がわかりません。普段付き合いのある主治医なら、患者さんの背景がある程度分かるはずなので、飛び込みの病院での医師との信頼関係の無さの問題なのか。
そんな世間話をしながら、罠狩猟チームの皆さんと小田原の山奥深くをパトロールして回ります。
結果は大漁でした。


猪1頭、鹿2頭。初回のビギナーズラックでしょうか。
猪は80kgの大物。鹿①はまだ1歳半の若鹿。パトロールに時間がかかり、2匹を捌く時間で精一杯。鹿②は他のジビエ肉屋さんにお任せすることになりました。
さて、解体は得意です。もともと外科医の端くれですから。
大学の研修医時代に、消化器外科で手術のイロハを学びました。
耳鼻咽喉科医になった後、開業前の8年間は、基幹病院の耳鼻咽喉科部長として、毎週3−4件の手術を担当していました。
まあ、僕に任せとけ!くらいの気持ちでした。
実際は・・・ナイフが切れるかどうかで仕事の早さが決まる!
どんな天才外科医でも、手術のメス捌きはメスの刃の状態で変わります。現代ではメスの刃はディスポで、手術中でも切れなくなったらどんどん交換します。
・・お借りしたナイフは刃先が欠けたもので、状態がベストではありませんでした。
それでも頑張ってきれいに解体しましたよ。ドクターとして皆さんに手術と解剖のゴッドハンドを見せるはずが、100均のビニールレインコートを着た普通の肉屋のおじさんでした。

解体した獲物は、大切に持ち帰りました。
初めてのジビエ料理。
今は何でもネットで調べられる時代ですね。
鹿ちゃんはローストディアに、猪くんはぼたん鍋でいただきました。


地元の飲食店の友人に手伝ってもらいましたが、むっちゃ美味しかった!
友人や家族と食べる食事だから美味しい、以上に美味しかった!
また機会があれば参加したいし、本気でハンターの免許を取ることも考えています。
命と食、自然と人と獣害について学んだ週末でした。